第5章 海外の相続税はかかるのか国際相続の弁護士

第1節 世界の相続税・贈与税第5章 海外の相続税はかかるのか

相続や贈与は、不労所得を手にするチャンスです。
財産をもらうだけで何の負担もなければよいのですが、そううまくはいきません。
日本の場合、一定額以上の財産を相続や贈与によって取得した場合、相続税や贈与税を支払わなければなりません。
他の国でも相続税・贈与税のような制度はあるのでしょうか。
相続税のような制度がある場合でも、日本と同じような制度なのでしょうか。

1)相続税

まずは、各国の相続税について検討してみましょう。相続税に関しては、以下の3つに大きく分けることができます。

ア 遺産取得税方式の国

遺産取得税方式では、財産を取得した人ごとにその取得した相続財産に対して税金が課されます。ドイツ、オランダ、フランスといった大陸法諸国において主に採用されています。日本の相続税制度も、遺産取得税方式のひとつです(※相続税の計算の一部で遺産税方式の考え方を取り入れている面もあります)。

イ 遺産税方式の国

 遺産税方式では、被相続人の遺産そのものに対して税金が課されます。ある人が亡くなったのをきっかけに課される税金であるという点では日本の相続税と同じですが、対象が異なります。アメリカ、イギリス、台湾といった、英米法諸国において主に採用されています。

ウ 相続税の課税制度がない国

遺産取得税方式でも遺産税方式でも、税金が課されることに違いはありませんし、その税額は少なくないのが普通です。
しかし、世界の中には、相続税がない国や、税の負担が軽くほとんどゼロに近い国があります。こうした国や地域はタックスヘイブン(租税回避地)と呼ばれています。
シンガポールや香港、マカオなどには日本の相続税のような制度がありません。そのため、税負担なく次の世代に財産を引き継がせることができます。
またオーストラリアは、国税及び州税のいずれにおいても相続税に相当する税目がありません。ただし、相続により財産が移転する際に、その含み益(キャピタルゲイン)に課税されます。

相続人・被相続人の住所がどこにあるのか、国籍はどこか、相続財産はどこにあるのか、といった種々の条件によって、相続税が課されるのか、どこの法律を基準に課税されるのかが変わってきます。
国際相続が発生する場合には、関係する国でどのような課税制度が採られているのかを事前に確認しておくことが重要です。

2)贈与税

贈与税の制度も国によって違いがあり、以下の3つに大きく分けることができます。

ア 贈与者課税方式の国

贈与者つまり贈与を行う側に贈与税の納税義務があります。アメリカやイギリス、台湾で採用されている方式です。一般的に、相続税において遺産税方式を採用する国で採用されています。

イ 受贈者課税方式の国

受贈者つまり贈与を受ける側に贈与税の納付義務があります。日本やスペイン、ドイツ、オランダ、フランスで採用されている方式です。一般的に、相続税において遺産取得税方式を採用する国で採用されています。

ウ 贈与税の課税制度がない国

相続税と同様に、贈与税の負担がない国も存在します。シンガポール、香港、オーストラリアには贈与税がありません。なお、イギリスにおいては、一定の信託への贈与(CLT)を除き、個人間の贈与(PET)は無税であり、贈与者が生前贈与の時点から7年以内に死亡した場合には相続税の課税標準額に含まれ、40%の税率により課税されることになります。つまり、生前贈与を行ってから贈与者が7年以上生き続けることにより、税負担なく資産を次世代に移転することができる仕組みになっているのです。

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第2節 タックスヘイブン第5章 海外の相続税はかかるのか

1)タックスヘイブンとは

世界には税金のない国や、著しく税率の低い国があります。そうした国や地域のことをタックスヘイブン(租税回避地)といいます。

有名なタックスヘイブンのひとつは,モナコ公国です。
最も大きな特徴は個人所得税がないことです。モナコは治安も良く、良いことずくめのようですが,一定基準以上の資産などがないと住めません。
英国領のマン島やジャージー島、カリブ海地域のバミューダ諸島、バハマ、バージン諸島、ケイマン諸島、中近東ではドバイ(アラブ首長国連邦)やバーレーンなども、タックスヘイブン政策を行っています。
アジア地域でいうと、香港やマカオ、シンガポールなども、税率が低いため、事実上、タックスヘイブン地域にあたります。

タックスヘイブンと認定される国や地域の特徴としては、人口の少ない小さな国ということが挙げられます。
人口が少なければ国が提供する公的サービスの規模もそこまで大きくなりませんので、公的サービス提供のために税金を課す必要がないのです。
さらにタックスヘイブンに住んでいる人が一定の所得を得ている状況にあることも特徴のひとつです。例えば、観光産業などが盛んであり、そうした産業から一定の所得を得ることができているのであれば、国が税金を使って国民を補助する必要性もなくなるのです。
もっとも、まったく国の行政が不要というわけにはいきません。治安を守るために警察組織も必要となりますし、多少の財源は必要です。そこでタックスヘイブンとされる国では、税金がないことや税率が低いことなどをアピールして外国企業を誘致したり、富裕層の資産を集めたりして、登録手数料などの収入を得ることによって賄っているのです。

税金を徴収される国民の立場に立ってみれば、タックスヘイブンはこのうえなく都合の良い存在ですが、世界の先進諸国にとってみれば非常に厄介な存在です。大企業や富裕層の資産が自国からタックスヘイブンの国々に流出すれば、自国の税収は減り、国家の存亡にかかわることになりかねないからです。

また、タックスヘイブン諸国の存在がマネーロンダリングの温床となっている場合が多い点や、タックスヘイブン諸国の金融機関がテロ組織の資金金庫になっている点も問題とされています。
これらの問題点を踏まえて、先進諸国はタックスヘイブン対策を進めており、タックスヘイブン諸国に情報開示などを強く求めています。
日本でも、2015年7月1日から「国外転出時課税制度」(いわゆる「出国税」)がスタートし、タックスヘイブンへの資産流出や課税逃れを防ぐ対策が取られました。これにより、富裕層がタックスヘイブンを利用した節税対策を講じることが難しくなったといえるでしょう。

国外転出時課税制度

2)タックスヘイブンにおける具体的な相続手続き

税金が発生しないことと、相続手続きの煩雑さは別物です。タックスヘイブンとして有名な香港とシンガポールを例に、各国の相続手続きを見てみましょう。

~香港~

 タックスヘイブンとして有名な香港にも、かつては遺産税という日本の相続税にあたる税金がありましたが、2006年2月11日以降に発生した相続については、遺産税の適用を廃止しました。遺産税がなくなったとはいっても、遺産税の納付だけが相続手続きではありません。「香港での相続手続きはどのように進めていくのか」「相続手続きに際してどのようなものを用意すればよいのか」といったことを事前に調査しておきましょう。

A)香港でのプロベート手続き

 香港は以前イギリス領であったという歴史的背景から、現在でも英米法系諸国のようなプロベートによる相続手続きが行われています。

【遺言がある場合】
遺言で遺言執行者として指名された人は、遺産の管理・清算をすることの許可を求めて裁判所に申し立てます。指名された人が香港に住んでおらず遺産管理人としての仕事を行うのが難しい場合には、代理人制度を利用することができます。遺言で遺言執行者と指名された人が遺産の管理などを希望しない場合には、その旨の書類を裁判所に提出しなければなりません。
一般的に、裁判所の許可を得るだけでも約半年はかかります。裁判所の許可を得た後、遺産管理人が清算などの作業を行いますが、最終的に各相続人の手元に遺産が渡るまでには1年以上かかるでしょう。

【遺言がない場合】
遺言がない場合、誰が遺産の管理や清算を行うか決まっていないわけですから、初めに遺産管理人を選任してもらう必要があります。その際、遺産の管理・清算の許可もあわせて裁判所に対して申し立てます。
なお、誰が裁判所に申し立てるべきかの優先順位が設けられており、原則として以下のとおりです。

①配偶者
②子ども
③親
④兄弟姉妹
⑤その他

順番が上位にある人でも、遺産管理人に選任されることを望まない場合には、その旨の書面を提出することで自らの権利を放棄することができます。
上位の人が権利を放棄した場合や、子どものうち誰が申し立てを行うかで争いになった場合、ただでさえ時間のかかるプロベートがさらに長期化することが予想されます。
相続開始後すぐに裁判所に対して申し立てができるようにするためにも、遺言を作成し、遺言執行者を指定しておくことが大切です。

一定の条件を満たした場合には公的遺産管理人が遺産の管理を引き受けてくれますので、通常のプロベート手続きは不要です。
通常のプロベートを回避できる一定の条件とは、以下のとおりです。

・遺産が現金、預貯金、定年準備基金(Mandatory Provident Fund)から成ること
・遺産総額が15万香港ドル以下であること

なお、公的遺産管理人に遺産の管理を依頼する場合には手数料がかかります。

遺産に不動産や株式が含まれている場合や、法律上の要件に該当しない場合には、上記のような簡易なプロベート手続きを利用することはできません。
遺産が5万香港ドル以下の現金のみの場合には、Home Affairs Departmentという行政部門に申し立てるという方法もあります。

B)遺言

遺言があればプロベートを回避できるというわけではありません。しかし、遺言があれば、相続手続きがスムーズに進む傾向にありますので、できる限り遺言を残しておくようにしましょう。

もっとも自筆証書遺言は避けるべきです。日本の場合、法律で定められた形式に則ってさえいれば、公証役場に行ったり、証人を準備したりせずとも、遺言者ひとりだけで有効な自筆証書遺言を作成することができます。
一方、香港では、自筆証書遺言が残された場合、遺言者の署名の真正について遺言者の筆跡を知る第三者の宣誓が必要となる場合があります。「筆跡を知る第三者」を探すのも一苦労ですし、第三者に公証役場などで宣誓してもらうようお願いするのも一苦労です。相続人に余計な手間をかけないためにも、自筆証書遺言は避けるべきでしょう。
相続手続きをスムーズに進めるためには、香港の財産については香港の法律に基づいた遺言を用意しておくことをお勧めします。
プロベートを申し立てたり、香港の方式で遺言を作成したりするとなると、やはり素人では難しい部分もありますので、香港の相続手続きに詳しい弁護士に依頼することが多いでしょう。
弁護士に依頼する以上、弁護士費用も発生します。プロベート手続きには長期間を要しますから、弁護士費用も高額となる可能性があります。相続税・遺産税を免れたいというだけの理由で海外投資をお考えの場合、コスト面や手続き面のメリット・デメリットもよく考えたうえで、海外投資を実行したほうがよさそうです。

C)香港の法定相続人と相続分

債務などの清算が終わった後に残った遺産は、相続人に分配されます。そこで誰が相続人になり得るのか、相続人の範囲が重要となります。

【配偶者がいる場合】

配偶者がいる場合、配偶者は必ず相続人になります。

◎配偶者のみ(子ども・親・兄弟なし)
配偶者がすべての遺産を取得します。

配偶者のみ

◎配偶者と子ども
子どもがいる場合には、配偶者と子どもが相続人となります。

配偶者と子ども

◎配偶者と親
子どもはいないが被相続人の親が存命の場合には、配偶者と被相続人の親が相続人となります。

配偶者と親

◎配偶者と兄弟姉妹
子どもも親もいない場合には、配偶者と被相続人の兄弟姉妹が相続人となります。

配偶者と兄弟姉妹
【配偶者がいない場合】

配偶者がいない場合、子ども→両親→兄弟姉妹→叔父叔母(伯父伯母)という順に承継します。

配偶者がいない場合
【法定相続人がいない場合】

遺産のすべてが香港政府に帰属することになります。

法定相続人がいない場合

~シンガポール~

香港と並んでタックスヘイブンとして有名なのがシンガポールです。シンガポールは香港と同じく歴史的な背景からイギリス法の影響を受けています。そのため、相続手続きに際しては、原則としてプロベートが必要となります。

A)シンガポールでのプロベート手続き

香港のときと同様、遺言の有無で分かれます。

【遺言がある場合】
遺言で遺言執行者が指定されていれば、その遺言執行者が遺産を管理することになります。
遺言執行者は、原則として被相続人が亡くなってから6カ月以内に、裁判所に対して遺言を執行する権限の付与(Grant of Probate)の申し立てを行わなければなりません。
申し立て先の裁判所は、被相続人の遺産額によって異なります。被相続人の遺産が300万シンガポールドルを超える場合には最高裁判所に対して、300万シンガポールドル以下の場合には下級裁判所に対して申し立てます。

シンガポールにおいてプロベート手続きを行う場合には、一般的に次のような書類が必要となります。

・召喚状
・宣誓供述書
・宣誓
・死亡証明書
・遺言書
・手続停止通告の有無を検索した結果の証明書
・財産の一覧表
・相続人の範囲などを説明した外国法弁護士による意見書

必要書類の提出先はシンガポールの裁判所です。書類が日本語で作成されていたのでは、裁判官などはその内容を理解することができません。したがって、必要書類が日本語で作成されている場合には、翻訳文を一緒に提出する必要があります。

【遺言がない場合】
まずは誰が遺産を管理するかを決めなければなりません。原則として被相続人が亡くなってから6カ月以内に、裁判所に対して遺産を管理する権限の付与(Grant of Letters of Administration)の申し立てをしなければなりませんが、誰が申し立てをすべきかについては決まりがあります。
「故人の遺産について権利を有する者のうち法で定められた人」が上記の申し立てを行うとされており、具体的には以下の優先順位に従って裁判所の裁量によって決定されます。

①被相続人の配偶者または最近親者

 被相続人が独身の場合:ⅰ親 ⅱ兄弟姉妹の順
被相続人が既婚の場合:ⅰ配偶者 ⅱ子どもの順

②被相続人の債権者
③その他裁判所が適当と認める者
遺言がない場合

申し立て先の裁判所は遺言がある場合と同様です。遺産が300万シンガポールドルを超える場合は最高裁判所、それ以下の場合には下級裁判所に対して申し立てます。

通常は遺産管理人として1名選任すれば問題ありませんが、被相続人の遺産について権利を有する人の中に未成年者(21歳未満)がいる場合には注意が必要です。未成年者の利益を守るために、2名以上の個人を選任するか、トラスト・コーポレーションを選任しなければならないのです。
また、被相続人の遺産について権利を有する人の中に未成年者がいる場合や、遺産額が25万シンガポールドルを超える場合には、遺産管理人は原則として2名の保証人とともに裁判所に担保を提出しなければなりません。
その後、裁判所で提出書類等の確認がなされます。問題がなければ、遺産管理人に対して遺産を管理する権限が付与されます。

B)CPF(Central Provident Fund)

シンガポールにはCPFという社会保障制度があります。使用者及び労働者は給与の一定割合をCPFに拠出しなければなりません。拠出された資金は労働者個人の口座に積み立てられ、その積立金は労働者の「老後の生活資金のための口座」「医療費の支払のための口座」「住宅購入などのための口座」に分けられて管理される、という仕組みになっています。
資源に乏しいシンガポールでは、一般的な福祉国家のように税収によって国民に福祉サービスを提供することは難しいのが現実です。そのため、シンガポールの社会保障制度は日本のような賦課方式ではなく積立方式とされているのです。

CPFの対象者は「シンガポール国民」および「永住権保有者」です。
ただし、永住権取得後2年目までは原則として対象外とされていますので、実際には永住権取得後3年目以降の人ということになります(永住権取得後2年目までの人でも、雇用者とともに標準掛け金率を支払っている場合には対象となります)。

積立金は全額、拠出者本人のものです。家族の入院費用や子どもの教育資金のためといったやむを得ない事情でもない限り、本人以外の人が積立金を使用することはできません。また、拠出者が亡くなった場合に権利を付与する人を指名していた場合には、指名された人はプロベートを経ることなくその権利を取得することができます。

C)預金払い戻し

詳細な手続については各金融機関によって異なりますが、第一にプロベート手続きを経なければならないというのは共通しています。プロベート手続で遺産管理人が遺産を管理する権限の付与を受けたうえで、各金融機関から求められる必要書類を提出することになります。
なお、相続が開始した場合に備えて、預金口座の受取人をあらかじめ金融機関などに届けておけば、プロベートを回避することができます。

D)シンガポールにある不動産

遺産管理人が遺産を管理する権限の付与を受け、その書類と不動産の権利書を添付した申請書をシンガポール当局のオフィス(The Land Titles Registry)に提出して名義変更を行います。
 なお、被相続人が不動産を共同保有している場合、プロベート手続きは必要ありません。共同保有者が被相続人の死亡証明書などの書類をシンガポール当局のオフィス(The Land Titles Registry)に提出するだけで、被相続人の保有分は自動的に他の共同保有者に引き継がれます。

E)シンガポールの税金

シンガポールでも遺産税という日本の相続税に相当する税金を徴収していた時代がありました。しかし、2008年に遺産税が廃止されましたので、2008年2月15日以後に発生した相続に関して遺産税は課税されないことになりました。
また、贈与税やキャピタルゲインへの課税もありません。

【コラム】国外財産調査制度

近年、日本人の国外財産の保有が増加傾向にあります。税制改正により基礎控除額が縮小されたり、相続税の最高税率が引き上げられたりと、特に富裕層にとって厳しい改正であったことは、富裕層による資産の海外移転をより加速させた要因のひとつといってもよいでしょう。
それに対抗するかの如く、課税当局による富裕層の国外資産の把握も強化されています。
国外財産に係る所得税や相続税の適正な課税・徴収の確保を図る観点から、2012年度の税制改正において、国外財産の保有者に国外財産を申告させる仕組みが創設されました。これを、国外財産調書提出制度といい、2014年1月から施行されています。

その年の12月31日において、合計額が5000万円を超える国外財産を有する居住者[非永住者(日本国籍を有しておらず、かつ、過去10年以内において国内に住所または居所を有していた期間が5年以下である者)を除く]は、翌年3月15日までに、財産の種類、数量および価額その他必要な事項を記載した「国外財産調書」を、税務署長に提出しなければならないことになりました。
その年分の所得税の納税義務がある人は所得税の納税地へ、それ以外の人は住所地(国内に住所がない場合には居所地)へ提出することになります。
国外財産調書の提出義務者は、必ずしも所得税の納税義務者と一致しているわけではありません。これまで確定申告をしたことがないという人にも提出義務がありますので、注意が必要です。

「合計額5000万円を超える国外財産」を有する場合には申告が必要となるのですが、その際、いくつかの疑問が生じます。
まず、「国外財産」に該当するか、つまり財産の所在はどのように判断するのでしょうか。財産が国外にあるかどうかの判断は、財産の種類ごとに行われます。
次に「合計額5000万円を超える」に該当するかが問題となります。国外財産の価額はどのように算出すればよいのでしょうか。財産の種類によっては日一日と価額が変わってくるものもあるでしょうし、レートの問題もあります。
国外財産の価額は、その年の12月31日における時価または時価に準ずるものとして見積価格により算出します。また邦貨換算は、その年の12月31日における外国為替の売買相場によって算出します。

◆インセンティブ措置

相続税などの適正な課税・徴収のためにも国外財産調書は大変重要なものですが、この調書は、課税当局が逐一調査して作成するのではなく、財産の保有者が自主的に自己の情報を記載し提出するものです。そのため、適正な提出をいかに確保するかが重要であり、少しでも適正に調書を提出してもらえるよう、過少申告加算税などのインセンティブ措置などが設けられています(国送法6、10)。

提出義務者

その年の12月31日において5000万円を超える国外財産を保有する居住者

国外財産の範囲

不動産(土地・建物)、現預金、有価証券(株式、投資信託等)など

提出時期・提出先

翌年3月15日までに、税務署長に提出

財産債務明細書との関係

国外財産調書に記載した国外財産については、財産債務明細書への記載は必要ない

罰則

不提出・虚偽記載があった場合、1年以下の懲役または50万円以下の罰金

○罰則
正当な理由なく期限内に国外財産調書の提出がない場合や調書に虚偽の記載があった場合は、1年以下の懲役または50万円以下の罰金が科されます。ただし、調書を期限内に提出しなかった場合については、情状によりその刑が免除されることもあります。

国外財産調書制度自体は、2014年1月1日以後に提出すべき国外財産調書について適用されますが、罰則の適用は、国外財産調書制度の周知のため多少の期間を要することから、2015年1月1日以後に提出すべき調書がその対象となります。


〇加算税の軽減措置、加重措置
国内財産についての相続税・所得税の申告と同様、所有している国外財産について相続税・所得税の申告漏れがある場合には加算税が課されます。
ただし、国外財産調書を期限内に提出していれば、申告漏れがあったとしても、その国外財産に関する申告漏れに係る部分の過少申告加算税などが5%減額されます。
一方で、調書の提出がない場合または提出された調書に国外財産の記載がない場合に、その国外財産に関して所得税などの申告漏れが生じたときには、その国外財産に関する申告漏れに係る部分の過少申告加算税が5%加重されます。

◆提出状況

本制度の創設後、初めての集計によると、2014年12月31日における国外財産の保有状況について、調書の提出状況は以下のとおりです。

平成25年分平成26年分
局 名件数(件)構成比(%)件数(件)構成比(%)
全 国5,539-8,184-
東京局3,75567.85,38265.8
大阪局63811.51,05412.9
名古屋局4578.36327.7
その他68912.41,11613.6

○総提出件数は全国で8,184件。一昨年の5,539件から約3000件も増えていることがわかります。

平成25年分平成26年分
局 名財産額(億円)構成比(%)財産額(億円)構成比(%)
全 国25,142-31,150-
東京局20,98983.523,50175.4
大阪局1,7937.13,63711.7
名古屋局9313.71,6485.3
その他1,4295.72,3647.6

○国外財産の価額の総合計額は3兆1,150億円。一昨年が約2兆5,142億円ですから、こちらも増加していることがわかります。

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第3節 二重課税を回避できる方法第5章 海外の相続税はかかるのか

アメリカにおいて遺産税の申告をした場合、同じ財産について日本でも相続税がかかるのでしょうか。
無制限納税義務者に該当する場合には、アメリカで遺産税が課された財産についても、日本であらためて相続税の申告をする必要があります。ただし、日本で申告する際には外国税額控除によりアメリカで課された税金を控除することができます。

香港のようなタックスヘイブンの国や地域は別として、世界の国々にも日本の相続税に当たる制度が存在しています。例えばアメリカには遺産税という税金があります。被相続人がアメリカの非居住者であっても、アメリカ国内にある財産については遺産税の課税対象になることがあります。
一方で日本において、被相続人が無制限納税義務者(居住無制限納税義務者および非居住無制限納税義務者)の場合、日本国内・国外全ての財産が日本の相続税の課税対象になります。
そうなると、アメリカにある財産については、アメリカの遺産税と日本の相続税の両方が課される事例が発生します。しかしそれでは納税者にとって税金の二重払いとなってしまい、過重の負担を強いることになりかねません。
そこで二重に課税されることのないよう、海外にある財産について日本と海外両国で納税義務がある場合には調整がなされます。海外で課税された相続税相当額を日本の相続税額から控除することが相続税法上認められているのです。
ただし、いくらでも控除されるわけではなく、一定の限度額が定められています。具体的には、次のいずれか小さい金額が外国税控除の限度額となります。

①相続税に相当する外国税額

②相続人が国内で納付する相続税額 × 外国税が課された財産額/相続などにより取得した財産総額

二重課税とならないよう日本の相続税額から控除できるのですが、場合によっては、日本で課された相続税額よりも外国税額のほうが多いということもあるかもしれません。その場合であっても、多く納めた分の差額は還付されません。
具体的に考えてみましょう。

①「日本の相続税額 > 外国税額」の場合

日本の相続税額:1000万円
外国税額   : 600万円

1000万円+600万円で合計1600万円の税金を納付しなければならないようにも考えられそうですが、外国税額控除により、国外で課税された相続税相当額の600万円については、日本の相続税額から控除することができます。
結果として、日本では400万円(1000万円-600万円)を相続税として納付すればよいことになります。

「日本の相続税額 > 外国税額」の場合

②「日本の相続税額 < 外国税額」の場合

日本の相続税額: 600万円
外国税額   :1000万円

日本の相続税額と外国税額の大小が逆になっただけではあるのですが、数字だけ入れ替えて単純に考えることはできません。
①の場合と同様に計算すると、マイナス400万円(600万円-1000万円)ということになりますが、納めすぎた税金を返してもらえるということにはならないのです。
日本でさらに相続税を納める必要はありませんが、差額の400万円を還付してもらうことはできません。

「日本の相続税額 < 外国税額」の場合

なお、外国税額控除の適用時期は、外国税を納付することになる日の属する年分です。日本の相続税の申告期限までに外国税額が確定していないなどの理由から外国税の納付が日本の相続税申告よりも後に行われる場合には、ひとまず日本の相続税を納付し、後から更正の請求手続きを行って外国税額控除の適用を受けることになるでしょう。
例えば、日本の相続税の申告期限が2016年10月18日である場合、外国における相続手続きの進行状況などにより、この期限までに外国税額が確定していない場合には、外国税額が確定するまで日本の相続税を支払わなくてもよいということにはなりません。期限内に日本の相続税について申告・納付し、外国税額が確定してから更正の請求を行って、外国税額控除の適用を受けるということになります。

外国税額控除の際にもう1点注意しなければならないのが、レートです。遺産税など海外で納めるべき税額は外貨で評価、算出されます。一方、日本の相続税は当然円で評価、算出されます。
外国税額を日本の相続税から控除するためには円への換算が必要になりますが、その際、いつのレートで換算すべきかが問題となるのです。
外国税額控除の際、外国の法令により課された税額をその外国税額を納付すべき日における電信売相場(TTS)により円に換算することによって、控除できる外国税額を算出することになります。なお、原則として、外国税額を納付すべき日におけるTTSを使用しますが、国内から送金する日のTTSを使用することもできます。外国税額を納付すべき日と国内から実際に送金する日のレートを比較して、有利なほうを選択できるのですが、送金が著しく遅延して行われる場合には送金日のTTSは基準とすることはできませんので、注意が必要です。
複雑な手続きになりますので、外国税控除を行う場合には実務に精通した専門家に一度相談してみることをお勧めします。

第4節 適用法と課税と手続き

どの国の法律が適用されるかという適用法の問題は国際私法が規律しています。国際相続においても、どの国の法律が適用されるかは、国際相続に関する問題を考えるうえで、最初の出発点になります。
一方、相続税がかかるか、相続手続きはどの国の手続きに従うか、という問題は、適用法の問題とは別に考える必要があります。ここに国際相続の難しさがあるのです。
日本の法律が適用されることと、アメリカの相続税を支払う必要があるかどうか、プロベートなどのアメリカの相続手続きを履践する必要があるかどうかは、別の問題です。
適用法の問題を解決したからといって、課税や手続きの問題までも解決したことにはなりません。
国際相続を考えるにあたっては、適用法の問題、課税の問題および手続きの問題という3つの問題を意識することが大切です。

適用法と課税と手続き

【コラム】国外財産の所有の状況

一部の富裕層を中心に、海外投資ブームが起こっています。
国内の不動産投資は、大都市圏の一部を除き頭打ち状態といわれ、売却・譲渡で利益を得るキャピタルゲインは、バブル期とは違い、現在ではほとんど期待できません。現在はマンション経営をはじめとするインカムゲインが主流になっています。そこで、将来性のある海外不動産に興味を持つ方が増えているようです。
例えば、アメリカや東南アジア地域など、経済成長とともに不動産価格の上昇が期待できる海外不動産投資に人気があるようです。

また、外貨預金や海外の株式・債券を対象とする投資信託など海外資産を投資対象とする商品も人気です。低金利、長引く株価の低迷、円安への期待感、高い税率などさまざまな要因が海外投資ブームの起因となっているようで、資産がある方にとっては「ある程度の資産は海外に避難させておきたい」というのが本音のようです。以前は日本で資産を保有していることが安全とされてきましたが、その状況は一変し、海外で銀行口座を開設し、外貨で資産を保有する動きが加速しています。国内の銀行や証券会社はもちろん、ゆうちょ銀行などでも海外の金融商品を取り扱っている状況です。

【コラム】税務調査の傾向

近年の相続税における税務調査の対象は、海外関連事案に重点を置いているといっても過言ではありません。
海外に滞在、居住することも珍しいことではなくなり、海外の金融機関に口座を開設することや、海外送金などがごく普通に行われ、自然と海外に資産が蓄積されている場合もあり、これらの運用益が所得税の課税から漏れる事例が多くなっています。
さらに、先に説明したとおり富裕層による海外投資も盛んになっています。
海外に財産を持ち出すことで、日本では相続税が課税されないと思っている方もいるかもしれませんが、現行の税制では、日本に居住している限り、日本国内の財産も海外の財産もすべてが相続税の対象になります。

海外に財産を移動させれば相続税の課税を逃れることができるという誤った考えや、海外財産にまで税務調査は及ばないであろうという安易な考えから、相続税を申告しない事例が増加しているといわれます。
海外関連事案の調査の増加により、海外財産の申告漏れ件数も増加傾向にあります。また、海外資産調査の強化の傾向は、2014年から始まった「国外財産調書制度」によって、今後もさらに続くと見られます。

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